H25短答(著作権法)解説について

法学書院の「弁理士受験新報Vol.101」でH25年度の短答本試験の解説が掲載されています。
以前は私も不正競争防止法と著作権法の解説を担当していたこともあるので、今回も私が執筆していると思われている方もおられるようですが、この2年くらいはタッチしておりません。今年の解説を拝見したところ、間違いがかなり多く見られるようですので、間違った理解をしないように、また私の執筆との誤解を解くために(笑)、ここで勝手に訂正をしておきたいと思います。
とりあえず第18問と第24問についてアップします。順次追加していきます。
第39問・第47問についてアップしました(7/10)
第51問についてアップしました(7/18)
                       著作権法担当講師・平山

第18問 著作者人格権
(1) 解説では、氏名表示権(19条1項)は氏名を表示し、又はしないこととする権利なので、表示しなくても製造販売することができるという旨の説明がされていますが、それは著作者自らが製造販売するときの話であって、問題文はプログラムを組み込んだ製品を製造販売することができるかというものなので、プログラムの著作者でない者が製造販売するケースを聞いており、答えになっていません。この枝が○とされる理由は、直接的には19条3項により、著作物の利用の目的及び態様に照らし、著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがないと認められるときは、省略することができる点にあります。そして、「コンピュータ・プログラムのような機能的な著作物の場合には、工業製品の一部に組み込まれているものも多く、有形的利用の場合においても氏名を省略できる場合が増加している(中山・著作権法・有斐閣p.382)」と省略可能のケースに挙げられています。ただし、本問はプログラムそのものが製品でないのでそれでよいですが、プログラムそのものが製品となる、ソフトのパッケージの場合には省略は認められない点と混同しないよう注意してください。
(2) 解説では根拠条文が挙げられていませんが、29条1項です。著作権法が短答だけの人なら解説だけでも十分かもしれませんが、補足すれば、29条1項にはかっこ書の例外があり、職務著作が成立する場合は、映画製作者も著作者となり、著作者人格権が帰属する場合もあることを覚えておいてください。本問は原則を聞いているので、帰属しないとして×が正解になります。
(3) この枝も根拠条文が挙げられていませんが、最初の文には15条1項を入れておくとよいでしょう。最後の文には17条1項があるとよいでしょう。
(5) 本枝については、「公表権は消滅する」というのは本試験の問題の表現として、あまりよい表現とは言えません。考え過ぎて間違えてしまった人もいたようです。公表権そのものは「その著作物でまだ公表されていないもの(その同意を得ないで公表された著作物を含む)」を対象としているので(18条1項)、著作者の同意を得て公表されてしまうと対象となる著作物ではなくなってしまい、対象となる著作物が存在しないことから消滅していると考えることになります。ただし、著作者人格権は曲がりなりにも人格権の一種としてとらえられるので、明文の規定なしに「消滅する」としてしまうのは違和感があります。基本書では「もはや公表権が働かない(島並他・著作権法入門・有斐閣p.109)」といった配慮がなされた表現になっています。ただ、迷ったとしても、枝2と比較すれば枝2のほうがより不適切と言えるので、答え自体を間違った人はそれほどいないかと思われます。

第24問 著作権及び著作隣接権
本問の解説は間違っているところが多過ぎて、どこから説明したらいいのか悩むレベルです。
(1) 冒頭に「甲が執筆した詩に関しては、丙が朗読会を録画し、DVDとして販売しても、何ら甲の著作権を侵害しない」とありますが、録画(2条1項14号)しDVDとして販売すれば、甲を複製し(2条1項15号)、公衆に譲渡により提供することになるので、詩の複製権(21条)及び譲渡権(26条の2第1項)を侵害します。販売しているので私的使用目的の複製(30条1項)には該当しませんし、朗読会が非営利無料としても、38条は複製権や譲渡権を制限しないので、該当する制限規定はなく、「甲の著作権は侵害しないが」としている解説は誤りです(後半の乙の著作隣接権を侵害する点の説明は合っていますが)。なぜ甲の著作権を侵害しないとしたのか説明がないので理由は定かではないですが、38条1項では詩を朗読(2条1項18号)することにつき口述権(24条)を制限するので、口述権が制限されればその口述されたものを複製・譲渡しても侵害にならないと判断したのかもしれません。もちろん、制限されるのは口述権だけなので、複製権や譲渡権が制限されるためには、別の理由が必要になります。
(3) まず解説第2文の条文番号が間違っています(×90条の2→90条の3)。そして、本問の題意を乙の同一性保持権と把握されていますが、実演家の同一性保持権は著作隣接権に含まれないので(89条6項かっこ書)、「乙の著作隣接権」となっている時点で実演家人格権は本問とは関係ありません。
本問は、丙が乙の歌い方そっくりに歌うことが乙の著作隣接権を侵害するか、すなわち物まねが乙の実演の複製になるのか、そして実演家は、その実演について、複製(2条1項15号)のうち、録音(同13号)・録画(同14号)する権利しか有さず、有形的な再製としての複製すべてについて著作隣接権を有していないので、録音・録画以外の複製をしても侵害にはならない、とするのが出題の意図です(この複製権と録音・録画権の関係は、他社の短答答練解説でも間違った説明がなされていました。誤解しやすいところなので注意してください)。
(4) この枝の解説も冒頭の「甲が作詞及び作曲した歌に関して、乙がアレンジして歌唱したものを丙が録画放送し、この放送を受信してインターネットにアップロードする行為は、何ら甲の著作権をしない」としている部分は完全に間違いです。アップロード行為は送信可能化行為であり(2条1項9号の5)、自動公衆送信(同9号の4)であるインターネットの場合においては、公衆送信に含まれるので(23条1項かっこ書)、制限規定に該当しない限り、公衆送信権の侵害となります。また次のかっこ内の「無断でアレンジしたことに関しては、乙に同一性保持権の侵害を問えるのみである。」としている部分も誤りで、アレンジは編曲ですから27条の編曲権の侵害も問えます。いずれにしろ、乙の侵害行為の話なので、アップロードする者の著作権侵害とは関係ありません。アップロードした者は、編曲された歌をアップロードしているので、28条を介して23条1項の公衆送信権侵害となります。
(5) 受信したテレビ番組をスクリーンに映す行為は上映(2条1項17号)に該当し「甲の上映権(22条の2)を侵害する」としていますが、受信しているものは丙のテレビ番組であって、放送(2条1項8号)されているものです。放送は公衆送信(2条1項7号の2)に含まれるので、受信したテレビ番組は「公衆送信されるもの」として、上映からは除かれます(2条1項17号かっこ書)。なので上映権侵害とはなりません。では、何に該当するかというと、公衆送信される著作物を受信装置を用いて公に伝達する伝達権(23条2項)の問題となります。そうすると、38条の制限規定は1項ではなくて3項になり、入場料を徴収していても制限されるという解釈になります(38条3項後段解釈・加戸守行『著作権法逐条講義』著作権情報センター・短答過去問H14-40(4)参照)。ただし、後段は「通常の家庭用受信装置を用いてする場合」に限られるため、巨大スクリーンはこれに該当せず、結局38条3項の制限規定の適用はなく伝達権の侵害となります。
そして、放送事業者丙の著作隣接権であるテレビジョン放送の伝達権(100条)については、102条1項で38条3項は準用されていないので、入場料を徴収しているかどうかに関係なく制限されず、影像を拡大する特別の装置を用いている以上伝達権侵害となります。
歌唱する乙については、実演家の著作隣接権(89条1項)に伝達権は含まれていないので、伝達権侵害は生じないこととなります。
そもそも、解説では甲を上映権の問題、丙の著作隣接権を伝達権の問題としていますが、同じ伝達権の問題としなければ整合性がとれません。

第39問 著作物
(5) 解説では「講演」が言語の著作物の例示(10条1項1号)に挙げられていることを根拠としていますが、問題文は「予め原稿を作成していない講演」について問うているので、講演であっても事前原稿の有無が問題となるのかがポイントであって答えになっていません。これは、2条1項1号の著作物の要件においては思想・感情を創作的に表現した「もの」が要件となっているのであって「物」ではなく、絵画のキャンパスや原稿用紙といった有体物を保護するものではないので、講演の予稿が問題とはならないことが理由となります。また、枝4とも関連しますが、映画以外については固定性は要件とはされておらず、即興演奏のような瞬時に消え去る場合でも保護を受けるわけです(加戸・逐条講義p.23)。
講義中によく私が「今私が話しているこの講義も、収録しているから著作物になるわけではなくて、即興で話している講義そのものが著作物になるのです」と話していることと同じです。

第47問 著作権
問題文の柱書が「著作権に関し」となっている場合は、たいていの場合は制限規定も含まれています。法学書院や発明協会を初めとする他の短答過去問集の解説でも多く見られるのですが、この程度の制限規定についてピックアップできていないのは、著作権法を専門にしていない弁理士が片手間に作成したとしか思えないレベルです。
(3) 題意は47条にありますが解説ではまったく制限規定が挙げられていません。彫刻の原作品の所有者はこれを公に展示することは45条1項により展示権が制限され、展示権を害することなく特別展として展示できます。その場合に、展示者は、観覧者のために当該彫刻の解説・紹介を目的とする小冊子にその彫刻を掲載することができ、複製権は制限されるわけですが(47条)、問題文では特別展の宣伝に使用するために彫刻のレプリカを作成するとしており、当然解説紹介を目的とする小冊子への掲載を超えたものであり、複製権は制限されず許諾を得ない限り侵害となります。
(4) 解説ではベストセラーとなった小説が公表された著作物といえるとしていますが、その根拠が示されていません。補足すると、ベストセラーになったということは小説の性質に応じ公衆(2条5項)の要求を満たすことができる相当程度の部数の複製物が、その複製権者又は許諾を得た者等によって作成され、頒布(2条1項19号)されているので発行(3条1項)に該当し、発行されれば公表されたものとされることによります(4条1項)。
(5) 解説では消尽規定は強行規定なので特約によって譲渡権を消尽しないとすることはできないと説明しています。当事者間でそのような契約をしても譲渡権は消尽するというのはその通りですが、問題文は消尽しないとする旨の特約ではなくて中古販売を禁止する旨の特約であって、決してそのような特約を設けることができないということはありません。そのような特約は当事者を拘束するだけで、消尽のように第三者にまで影響を与えるものではないということです。つまり、そのような特約を設けた場合は、譲渡すると契約違反として債務不履行責任を負うことになりますが(民法415条)、譲渡権は消尽するので譲渡権の侵害とはならないというのが答えです(不法行為に基づく損害賠償責任は負わない(民法709条))。さらに、そもそもパッケージに特約の文言が明記されているからといって、CDの購入者とその音楽の著作権者との間に当該特約が有効に成立しているのかという問題もあります。いわゆるシュリンクラップ契約の有効性については疑問視されているところですが、たとえ有効であったとしても債務不履行となるだけで譲渡権侵害にはならないということに変わりはありません。
あと、解説文中に「著作権は消尽し」とありますが、消尽するのは譲渡権のみで、著作権は消尽しません。たとえ適法に入手したからといって支分権のすべてが消尽するのであれば、購入した本やCDはコピーして配ったりネットにアップし放題というトンデモナイことになってしまいます(笑)。誤記とは思いますが、論文を書くときはこのような何気なくやってしまう表現に注意してください。

第51問 著作権
本問も著作権の制限規定がメインテーマとなっています。著作権の制限規定の比重が高まってきていると言えます。逆に言えば、しっかりと勉強をしてきた人には点を取りやすい問題なので、勉強をきちんとしている人とそうでない人とを判別できるように、いい方向に傾向が変わってきているとも言えるかもしれません。
(1) 解説には制限規定がまったく触れられていませんが、題意は制限規定の適用がないというところにあるので、説明不足と言わざるを得ません(他の短答解説書でも制限規定に言及することなく侵害となると断じているものがありますが、単に制限規定に気付いていないだけと思われます)。
本枝は、美術の著作物である絵画が建物の外壁に描かれており、45条2項の「建造物の外壁その他一般公衆の見やすい屋外の場所に恒常的に設置する場合」に該当するので、一定の場合を除き複製権は制限され侵害とならないことになります(46条柱書)。しかし、除外される一定の場合として、「専ら美術の著作物の複製物の販売」を目的とした複製及びその複製物の販売があり(同4号)、絵はがきにして販売することは「専ら」美術の著作物の複製物の販売を目的としているので、これに該当し複製権は制限されず、侵害となるため、誤りとなります(加戸・逐条講義)。
(2) やはり全体的に説明が足りないです。朗読行為は口述に該当することにつき2条1項18号の定義があり、24条の口述権も単に口述する行為だけを対象にするものではありません。講義ではいつも言っていることですが「公に」という文言があり、これは22条かっこ書において「公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として」行うものであり、問題文に「不特定の者に対して」朗読するとあるので、「公に」に該当し口述権の対象となります。
そして、問題文では「有料で」とあるので、非営利無料での口述(38条1項)についての制限規定の適用はなく、翻訳家だけでなく小説家の口述権も制限されないので侵害となり得ます(文言上は43条に38条は列挙されていないので原著作物である小説の著作権は非営利無料でも翻訳利用は制限されないということもできます)。
(4) 条文番号が間違っています(×42条1項2号→○42条2項1号)。また「裁判手続等における複製等」に該当するとしていますが、42条のタイトルには「複製」としかありませんし、問題文も複製権のことしか言及していないので「等」の意味がありません。論文答案でも何でも「等」をつける方がよくいるのですが、「等」は意味の特定をぼやかすことになり、またこの例のように意味のない「等」をつけるとわかっていないという評価になるので、一度使った言葉につき長すぎるから省略するという場合以外はきちんと書くようにしてください。